2013年10月6日

差し向かい

「ごめ~ん お待たせしますた(笑)」

夕方急な仕事が入り 待ち合わせの時間に
小一時間遅れて 娘がやってきた

「おお お帰り~ しょっちゅう予定外の仕事入って大変だなぁ」

「うん まあそういう業界だから仕方ないよ」

業界などという言葉をさらっと発するようになった娘と
彼女が住む神奈川のとある町で久しぶりのデート?である


「さあ どこに行く? 寿司にする? それとも焼き肉か?」

「海鮮でもいい? お父さんを連れてきたい店があるんだけど…」

「へ~ 海鮮屋さんかぁ いいねぇ じゃそこ行こう」

娘に飲み屋へ連れてってもらう歳になったんだな~なんて(笑)




先月、照明技師の仕事をしている娘が住む神奈川へ行ってきました。
娘と二人だけで食事をしながら時を過ごすのはこれが二度目です。

最初は今から一年半前、彼女の就職先が決まって専門学校を卒業し、帰省していた我が家から都会へ旅立つ直前でした。

寿司が喰いたいというので、いつもの回転する店ではない馴染みの寿司屋に赴き、二人でカウンターに座ってやたら旨くて高い肴をつまみに新鮮な時間を共有したことを覚えています。

そのときは、これから社会に出る娘に対して、仕事への向き合い方であるとか、一人暮らしをする上での一般常識のような話をしていたので、話し手の親父と聞き手の娘というシチュエーションでした。

二度目の今回は、逆に娘の方から現在の仕事の悩みであるとか、恋愛や結婚に対する考えなど色んな話が次々に飛び出して、明らかに話し手の娘と聞き手の親父と言った構図になっていました。

しかし、娘とのこの二回のデートは私が想定していた通りの流れでした。

私は子どもたちがそれぞれ家庭を持つまでは、一対一の差し向かいでじっくり対話する時間を年に一度は持つようにしようと思ってそうしてきました。

そのきっかけは、今から七年近く前、やはり就職が決まった長男が専門学校を卒業する直前に、当時二十歳になった息子と初めて酒を酌み交わしたときのことでした。
(詳しくは2007年3月「乾杯」http://dairicolum.blogspot.jp/2007/03/blog-post.html)

初めは単純に息子と酒を飲むことを夢に見ていたオヤジの我儘を叶えるだけのつもりだったのですが、このとき長男が私に向かってよく話すことに先ず驚きました。

私の中では無口な高校時代の印象のままフリーズしていただけに、うるさいくらいによく喋っていた幼い頃に戻ったような饒舌ぶりに本当にびっくりしたものです。

そして時間が経つに連れ、「お母さんには話してないんだけど」や「そのときお父さんはどう思ってたの?」のように、私が思いもよらなかったことや、そこは話したことなかったというような会話が途切れることなく続くのです。

当時の私にとってそれはまったく想定外のことでしたが、帰りの電車に揺られながら、親子にとってとても貴重な時間だから、子どもたちとは毎年この差し向かいを続けて行こうと思うようになっていました。


人はどんなに気の置けない仲間内であっても、それが三人以上のグループになると本当の本音は話さないものです。

話さないというより、通常グループの対話というのは意図するとしないとに関わらず、何らかのテーマに対する差し障りのない範囲での個々の意見に喜怒哀楽するという形で成り立つので、本音を話す機会、必要がないといった方が正解かもしれません。

それは家族の場合でも同じで、全員集合して一杯飲りながらワイワイやるのはとても楽しいひとときであることは間違いないのですが、大人になるに連れ、夫々が社会に出てからの経験に基づく自信や不安を持ち合わせるようになるので、家族といえども、いや家族だからこそ心配かけまいとか恥ずかしいからという心理が働き、全員がそろうような場では敢えてその部分には触れないようになります。

これは秘密を持つとか、正直ではないという問題ではなく、グループだからこそ話せることもあれば、一対一の差し向かいでなければ話せないこともあるという至極当然のことなのです。

そして差し向かいの場面でこそ、人は自身にとって大切な話をするものです。

ビジネスの世界でも、上司と部下の差し向かいでの面接を社内コミュニケーションの一環として取り入れている企業は数多くあります。

ただ、このビジネスの世界での面接は、上司と部下の信頼関係が成り立っていないと所詮グループ対話の域に留まり、差し向かいから生まれる本来の効果は期待できないのではないかと思います。

しかし一方で、互いの信頼関係を育む最たる方法が、その差し向かいでの対話であることも間違いありません。

親子でも会社でも友達の関係でも、基本は普段からどんな関係性を育んでいるかが問題です。日々の挨拶や、何気ない一言の積み重ねを土台にした差し向かいの時間を大切にすることで、人と人との良好なコミュニケーションは培われていくのではないでしょうか。




「近くのホテルとれなかったんだが お前のアパート泊まれるか?」

年頃の娘ゆえちょっと気を遣ってビジネスホテルを当ったが
連休中ということもあってどこも空きがなかった

「大丈夫だよ 別にホテルなんかとらないでウチに泊まればいいじゃん」

娘にとってはオヤジの気遣いなど余計なお世話だったようである

「そうか じゃ一晩厄介になるけど頼むな」


そして 帰宅した私にカミさんが一言

「父親を自分の部屋に絶対入れない子も多いんだよ~
ウチはお父さんのことを信頼してるってことでしょ」

「あら そういうこと?」



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