2014年11月8日

けじめのアニバーサリー

披露宴も佳境に差しかかったところで

「ここで新郎から新婦に、今日どうしてもやっておきたいことがあるということですので、皆様もどうぞ正面をご注目下さい」

司会者の投げかけた言葉に場内が暫し静まった

「実は新郎は、今から二年前に赤ちゃんができて入籍をして、その後慌ただしく本日まで過ごしてきたために、新婦にちゃんとプロポーズをしていないことがずっと心に引っ掛かっていたそうです。そこで本日この場をお借りして、しっかりとプロポーズをしたいということなので、皆様には二人の証人として見届けて頂きたいと思います。それでは新郎お願いします!」

司会者が続けた言葉に会場からやんやの拍手喝采が飛ぶ

「今日まで 自分みたいな男についてきてくれてありがとう
順番が前後してしまって色々と辛い思いもさせたと思うけど
毎日 家族のために一生懸命頑張ってくれて本当に感謝してます
これからも 自分が精一杯貴女と娘を守っていくので 
今日からまた 新たな気持ちでヨロシクお願いします!」


新郎は一礼すると新婦に歩み寄り この日のために自分で作ったという
花の指輪を彼女の指にしっかりと結びつけた

少し滲んだその光景を遠目から眺めていた私は 
ああ よかったと安堵の気持ちで胸が一杯になっていた



2014年11月1日、次男夫婦が愛娘を伴って結婚披露宴を執り行いました。

このコラムでも何度か次男夫婦のことをご紹介してきたのでご存知の方も多いと思いますが、彼らは三年ほど前から結婚の約束をして同棲を始め、その後お腹に赤ちゃんを授かったことをきっかけに2012年6月入籍(http://dairicolum.blogspot.jp/2012/06/blog-post.html「運命の出逢い」 )
その年の11月20日に愛娘の陽菜が生まれました。(http://dairicolum.blogspot.jp/2012/11/blog-post.html「ようこそ」 )


一時代前なら「できちゃった婚なのによくもまあ堂々と結婚披露宴なんてやるよなぁ」と揶揄されるところでしょうが、時代の流れとともに結婚式の意義も変化して、最近では今回の息子たちのように子供を囲んでの形式も決して珍しくはないようです。

それどころか今回の披露宴での陽菜の存在はまさしくキューピットよろしく、あちこちで写真をリクエストされ、会場にいた皆さんを笑顔にし、知らない人同士の縁結びにも一役買うという活躍ぶりでした。


昔は嫁が夫の家に嫁いで家族と同居するのが当たり前だったので、結婚式は家と家とが繋がったことを証明し、親戚やご近所に新しい家族としてのお嫁さんをご披露することを主たる目的としていましたが、結婚しても親とは別居が当然で、夫婦それぞれに仕事を持つことが一般的となった現代では、結婚自体が個人重視の時代となり、子どもがいるといないとにかかわらず、入籍だけして費用と時間と手間のかかる結婚式や披露宴は敢えてやらないという夫婦も増えています。

夫々の環境があるので何が良い悪いではありませんが、ウチの息子は二人が結婚したことをちゃんとした形で家族や友人に報告して認知してもらい、そして何より自分の妻を、花嫁として皆から祝福してもらいたくてどうしてもこの日を迎えたかったのです。

私は父親として、順序が前後しようが何だろうが、結婚という二人の人生のスタートにけじめをつけたかった息子の意思をもちろん尊重し、喜んで後押ししてやりました。


披露宴の最中、そんな息子の思いが伝わっていると実感する出来事がいくつかありました。

新婦側代表の祝辞を頂戴した、嫁の元勤務先の社長さんの第一声が「新郎に男として敬意を表します!」でした。その社長さんは、入籍して二年以上経ちながらも、新婦の花嫁姿を彼女のご両親初めご家族やご友人に、約束通り披露してくれたとして、息子を褒め称えてくれたのです。

入籍する前から嫁が働いていた会社の社長さんなので、当然その頃に上司として、息子との結婚話の相談に乗って頂いていたのは言うまでもありません。それだけに、この結婚披露宴という席で、二人が自分を初め元同僚の皆に、正式に結婚の報告をしてくれたことが何より嬉しいと締め括ってくれました。

また、新婦のご家族の席に私がご挨拶のお酌に赴いたとき、真っ先に彼女のお爺様が私のもとに歩み寄りこう仰いました。「こんな盛大に結婚式をやってもらって本当にありがとうございます! 孫の晴れ姿を見れて…もう…いやぁ…嬉しくて…何とお礼を言ったらいいか…ありがとうございます!」私は何度も深々と頭を下げるお爺様の肩を抱きながら「こちらこそです!」と返すのが精一杯でした。

おそらく孫娘やその親であるご自分の息子たちには直接言葉にはしなかったと思いますが、お爺様としては孫の花嫁姿を一目見たかったに違いありません。その夢が叶い、本当に幸せそうな表情で喜んでおられるお姿を拝見して、ここにも息子の思いを受け止めてくれる人がいたと私も嬉しく思いました。

圧巻は新郎がお色直しで中座するときのこと、司会者の計らいで兄貴と妹がエスコート役になって三人そろって退場するという演出があったのですが、このとき次男を中心に三人が肩を組み並んで会場を歩く姿を見ていて、三人の子どもたちの幼かった頃の光景が走馬灯のように私の脳裏を駆け巡り、完全にタイムトリップしていました。
これはたぶん私ら親にしか分からない感覚だと思いますが、次男の結婚を我が事のように喜び、そして応援してきたのが他ならぬこの二人の兄妹であることを、私ら両親は一番に理解していたので、こうして肩を組み三人並んだ姿を見て、爆笑に包まれる会場とは裏腹に、私は感極まってしまいました。



そしてまたこの結婚披露宴には不思議な縁がたくさん散りばめられていました。

今回二人が選んだ結婚式場は、私が担当している事務所の顧問先企業が経営する式場です。しかもこの会社の社長さんは、新婦の父上と小中学校時代の同級生でした。しかもしかも今回の結婚式を担当してくれたスタッフは、この式場でプランナーとして働くウチの所長の娘さんです。何と私ら夫婦が赤ちゃんの頃から知っているその彼女は、此度の披露宴の司会進行まで担ってくれました。

そんな並々ならぬ強いご縁も頂きながら、そういった皆々様のおかげさまで、息子夫婦の一大イベントは心温まる最高のアニバーサリーとなりました。






会場内で私を待っていてくれた社長さんが私を席に先導しながら囁いた

「そのネームプレートの裏に息子さんからのメッセージがあります」

「そうですか 今日はよろしくお願いします!」

社長に一礼して椅子に腰かけ何の気なしにネームプレートを裏返した

「・・・」

相変わらず下手くそな字だ…
いい父親になってくれよ!