2006年9月23日

団塊

「ナイスショット!」

秋晴れのコースにオヤジたちの気分爽快な声が響きわたる
まっすぐ飛べばすべてナイスショットなのだ!

「ファー」・・・ 「ファー」・・・ 「ファー」・・・

あちこちのコースからオヤジたちのダミ声がこだまする
せっかく来たからには隣のコースだって使わなきゃ損だ?

「いやー昨日稲刈りだったモンで足腰痛くて距離がでねーゎ」
「何言ってるだい!俺なんか肩上がんなくてまともに当たんねーょ」
「わざと林に打ち込んできのこ採ってくるのやめろって」

良くてぎりぎりふたケタ、もともと煩悩の数くらいで回るオヤジたちの
そんな会話がいたく楽しいコンペを私はとても気に入っている


私の住んでいる町内にはオヤジさんたちのゴルフ愛好会があります。
「アルバトロスゴルフクラブ」と名称だけは奇跡に近いクラブです。

メンバーは30数名、その中心は50代半ばから70代前半、40後半の私はバリバリ若僧の部類です。従って当然カートを運転し、オヤジのよく曲がるボールを捜しに山を駆け上がり、パターを4本持ってグリーンに走り、フラッグを抜き差ししてまたカートへ・・・なんて「お前はキャディーか!」という仕事ももちろん率先してやることになります。

でも10数年前にこのクラブに誘ってもらったおかげで、結婚してから移り住んでほとんど知り合いのなかった私が、今は町のどこへ行っても気軽に声をかけ合えるようになり、気のいいオヤジさんたちとの多くの縁を持つことができたのも事実です。

だからいつもセルフで回るこのコンペで、キャディー代わりに動くこともまったく苦にならず、それどころか大先輩のオヤジたちに向かって「そんなにリキんだら血管切れるよー」などと軽口を叩きながら結構楽しんでやってます。

時間的、経済的なこともあって、プライベートではほとんどやらなくなったゴルフですが、そんなオヤジさんたちとの縁を大切にしたくて、年3回行われるこのコンペにだけは可能な限り出るようにしているのです。


先日今年2回目のコンペがあり、会長さんの提案で近くの公園で焼肉でもやりながら表彰式をやろうということになりました。

酒屋からビールサーバーを借りて、大型の鉄板4台を配置して20数名が参加しての大盛り上がりの会になったのですが、私は自分の近くの鉄板周りにいた60歳前後のオヤジさんたちと飲みながら、その話の内容にちょっと驚いてしまいました。

あるオヤジさんが「いやーニュージーランドは本当にいいよ!」
と昨年ご夫婦で旅行に行ったときの話を始めると
横にいたランニングにねじり鉢巻といういでたちのオヤジさんが
「そうそう・・・オレも母ちゃんと行ったときラフティングってのをやったんだが、ボートがひっくり返ったときはホント死ぬかと思ったって! 船頭の兄ちゃんがわざとあれやるだよな、『まったくコッチの歳考えろ』って言ってやったダヨ!
日本語でー、だーっはっはっはっー(笑)(笑)!」

すると今度は隣の作業つなぎを上だけ脱いだオヤジさんが
「ニュージーランドも確かにいいが、カナダもかなりいいじー」

「おーカナダね!バンクーバーとか?」

「あそこは一週間位いなきゃ本当の良さは分かんねぇぞ」

「あの何とかって滝は見てきたかい、なんつったっけなーあの滝・・・」

「???」


「4年2組の“だぼ”」なんて言いながらゴルフでもろくに横文字を使わないオヤジさんたちが、海外の、それも自分たちが経験した話で盛り上がっているのです。人は見かけで・・・とはよく言うものの、そのあまりのギャップに私は正直びっくりしました。

そしてただ相槌を打って聞いていた私は、目を輝かせてそんな話をしているオヤジさんたちの多くが、巷で騒がれている「団塊の世代」であることに気づき、またまた“はっ”としました。

2010年問題と言われ、その経済効果などが良くも悪くも注目されている団塊ですが、その年代だけを考えれば、確かに時間的にも経済的にも余裕ができて、やっと自分のために有意義な時間を使えるといえば確かにそうでしょう。
しかしその年代になればみな同じというわけではなく、やはり心身の健康と人生に対する旺盛な好奇心が伴わなければ、誰もが充実した時間を過ごせるというものではありません。

世間では「団塊の世代」の人々は単にその人口の多さだけではなく、生まれ育ってきた時代背景などから、
とても闊達で行動力があり好奇心や競争心も強いと言われています。

かくいう田舎丸出しの我が町内のオヤジさんたちでさえ
毎年夫婦で海外旅行をする
日本中の旨いものを食べ歩く
全国の天然温泉を制覇する などなど・・・

本当に若々しく元気なのは明らかで、傍にいても生きる力が強いと感じます。

今回、まったく利害関係なしでお付き合いさせていただいている身近な団塊オヤジたちのちょっと・・・いや、かなり違った一面を垣間見て、巷で「団塊の世代」に対して言われていることは結構ありかもと思いました。

実際にどんな影響が出てくるのかは分かりませんが、2010年に向けて社会の状況にも注視しつつ、私はやっぱりこのオヤジさんたちとのやかましいコンペもずっと楽しんでいきたいと思います。

2006年9月6日

コストダウン

9月最初の日曜日、行きつけの美容院に散髪に行きました
その頭で何で美容院なんだよ?(って言いますか!)

失礼な!

そこは私がホテルマンをしていた頃に
とてもお世話になった上司の奥さんのお店
もう20年来通っていて、逆にすっかり後退した
この頭をどうにかしてくれるのはこの美容院しかないんです

それはともかく、いつものように世間話をしながら僅か10分ほどでカットを終えた私を「ちょっと時間いい?」と奥さんが呼び止め、そしてある会社の行く末を案じてこう言いました。

「暫くの間、妹のところから手を引いてくれない?」

おふざけモードだった私は一瞬時間が止まりましたが、頭を整理して
「話を聞かせて下さい」と、改めてソファに腰を下ろしました。

実はその会社というのは、今から20年近く前に、この美容院の奥さんの妹さんが社長の下に嫁いでいるという縁で紹介していただき、現在も私が担当している得意先です。

バブル当時は毎年かなり順調な業績を上げていたのですが、ここ数年急激に状況が悪化し、良かった頃に投資した負債が今になって重くのしかかるという悪循環で、非常に厳しい経営環境にさらされていたのです。

以前から妹さんにそんな状況を相談されていた奥さんは、まず「何か節約できることはないの?」と切り出したそうです。「もう目一杯切り詰めてるんだけどね・・・」と返され、「とにかくコストダウンしなきゃ!」と色々相談した結果、会計事務所を切ることを勧めたと言います。

「帳簿だけちゃんとつけて、それを持って税務署に行けば、決算や申告なんて何とでもなるんだから!。高い報酬払って会計事務所に見てもらわなくてもいいんじゃない?って妹に言ったのよ」
奥さんがまくしたてます。

本来は違いますが、こういった状況では確かにそれも一理あります。どうやったってそれ以上税金を納める余地もなく、税務申告することだけを考えれば、現実問題としてそれもありというのは事実でしょう。

「何ヶ月か前に妹さんからその話はされました・・・。でも社長からは助けて欲しいと言われてます。奥さんは私が決算書や申告書を作るだけのことで、20年も妹さんの会社とお付き合いしてきたと思っているんですか?」

掃除の手を止め、ちょっとびっくりした表情で奥さんは私を見ました。

「本当のコストダウンっていうのは、まずは無駄な、不必要なコストを削減するってことでしょ?確かに会計事務所が高い報酬だけ取って誰でもできるような仕事しかしないのなら、不必要な経費としてカットしてもやむを得ないと思うけど、少なくともウチはそういう会計事務所じゃないんですよ。それに奥さんともあろう人が、本気で私が妹さんの会社にとって必要ないと思ってるんですか?」

「・・・・・・」

「守秘義務があるんで、話せることと話せないことがあるけど・・・」
このあと言葉を選びながら、これまで私が社長夫婦にしてきたアドバイスや会計事務所という立場からの私の考えを話しました。

この会社がそうであるように、我々の業界では特に親戚とか友人つながりでの得意先が結構多いのが現実です。奥さんも昔からの知り合いである私に気を遣って今までなかなか話せなかったのだと思います。それでも一向に好転しない妹さんの会社の状況に黙っていられなくなり、ここで勇気を持って話してくれたことに対し、私もできる限り誠意をもって対応したつもりです。

最初は少し興奮気味だった奥さんも、私の話を聞いているうちにいつもの穏やかな視線に変わっていきました。


私たちが価値ある存在でありたいと思っていてもそれを評価するのは関与先の皆さんです。私たちがいただく報酬が高いか適当かも、関与先にとっての私たちの存在価値の有無如何です。私たちに力がなければコストダウンの対象になるのは当然でしょう。そんないつ削ってもいいようなコストの一つにならないように、関与先に貢献できる真のパートナーになるべく、私たちは自己を磨き続けたいと思っています。


「よろしく頼むね!」

奥さんの最後の一言に武者震いした一時でした。