2012年5月2日

結婚のかたち

「今月末に向こうの実家に行って 結婚のこと話してくるよ」

「そうか まあ親父さんにひたすら頭下げて認めてもらうんだな」

「うん・・・ そのつもり」

この連休 長男が彼女のご両親に結婚の承諾を得るために
先方のご実家のある鹿児島に赴くという

「自信持っていいぞ お前はいい男になった」

「・・・そう?」

「ああ このオヤジが言ってんだから間違いない 大丈夫だ」

「・・・そうか ありがとう!」

「男なら一度はみんな通る道だ 胸張ってしっかりやってこい!」

こんな時くらい 少しは背中を押してやらねばなるまいと
ちょっと脚色強めの褒め言葉を投げかけてやったのだった



子どもたちが結婚を意識する歳頃になり、その結婚というものを改めて親の目線から捉え、話をする機会がこのところやたら増えた。

私ら夫婦が結婚したのは今から27年前の1985年5月。以前このコラム(2010/09『アニバーサリー』)でも少し触れたが、その結婚のかたちは二人だけで式を挙げたハワイの教会から結婚証明書をいただくというものだった。当時は少数派だったと思うが、自分たちが普通の結婚披露宴というものを経験していないこともあって、私もカミさんもあまり結婚のかたち自体にはこだわりを持っていない。

だから最近よく聞く挙式も披露宴も行わずに籍だけ入れるかたちにしても、それが色々な事情を考慮した結果であればまったく構わないと思っている。

ただ、せめて花嫁さんになる女性の方は、色んな事情を考慮するその前に、先ずは自分の花嫁姿を両親に見せたいという気持ちは持っていて欲しい。人生でたった一度と言ってもいい本当の主役となる瞬間の晴れ姿を披露することは、それまで育ててくれたご両親に対する最高の親孝行であり恩返しであるからだ。結婚の披露式は自分たち二人のためだけにあるのではなく、両親のためにもあることをわきまえていることが必要だ。

その意味では、結婚を前提に付き合っている長男の彼女も次男の彼女も、二人とも花嫁衣裳を着たいと言っているとのことなので、そこは良かったと思っている。その披露の方法は自分たちの身の丈に合ったやり方が今はいくらでも選択できるのだから、先ずはそこからスタートして二人でどうするかを考えればいいのである。


そんな息子たちの結婚像を書き進めていたら、ちょうどテレビで現代の若者の結婚事情なる話題が取り上げられていた。

それは内閣府が昨年実施した結婚と家族形成に関する調査をまとめた「子育て白書(http://www8.cao.go.jp/shoushi/whitepaper/w-2011/23webhonpen/html/b1_s2-1-4.html)」からの情報だが、20代~30代の独身者を対象に調査したところ、将来結婚したいと考えている人は、男性が83%、女性が90%と高い割合ではあるものの、逆にそれ以外の男性17%と女性10%は、将来結婚するつもりはないと考えているのだという。

今から30年前、すなわち私らが結婚した1980年代の調査では、後者の割合は男性で5%、女性は僅か2%だったという。確かに21世紀になって雇用機会均等法など国の後押しもあり、ビジネスにおける男女較差はほとんどなくなって、今では女性でも生涯の仕事を持って男性以上に稼ぐ人がどんどん出現するような時代になっている。

女性にとって、結婚の価値観が人生の着地点を意味しなくなったことは事実である。

そして、この白書では将来結婚したいと考えている人の「結婚生活を送る上での不安」に関する調査結果も公表しているのだが、それによると男女ともに「経済的に十分な生活ができるかどうか心配」がトップでそれぞれ50%以上を占めている。

さらに読み進めてみると、男性は「配偶者と心が通わなくなるのではないか」など、結婚相手との関係性を不安視しているのに対し、女性は「配偶者の親族とのつきあい」「出産や子育て」「配偶者や自分の親の介護」など、家庭的な役割を果たすことへの負担をあげている人が非常に多いという結果が出ている。

結婚意欲はあっても、こうしたことが結婚に踏み出せない背景にあるようだ。


私らの親が家庭を築いた昭和前半は、女性が伴侶の家に嫁入りして同居するのが普通の結婚のかたちだった。大きな戦争を経て物のない貧しい時代だったと思うが、仮に亭主の稼ぎが少なくてもとりあえず住む家があり、親子支えあっての生活だから十分ではないにしろまったく飯が食えないということもなかっただろう。

私らが家庭を持った昭和後半は、新婚生活は安アパートなどを借りて夫婦二人で過ごし、子どもが学校へ上がる頃になったら亭主の実家に入って同居するというパターンが結構多かったように思う。時期はともかくいつかは同居がまだ当り前だった。

だが現代は、結婚するのであれば当然に別居して、自分たちだけの独立した経済世帯を成立させることが条件のようになっている。ウチの息子たちにしてもそうだが、自分だけの収入ではやっていけないから当然夫婦共稼ぎとなり、それが当分は子どもを持てない状況を生じさせる。20~30代男性の6人に一人、女性の10人に一人が結婚したくないというのも頷けないではない。

やはり現在日本が抱える少子化問題は、確実に若者の結婚難時代とリンクしており、賃金水準が一向に上がらない状況の中で、さらにこの負のスパイラルが深刻化するのではないかと懸念される。


結婚は他人同士が一つ屋根の下で長年寝食をともにする共同生活だから、気持ちがすれ違う時もあればぶつかり合う時もある。結婚当初私ら夫婦も経験したが、経済力の乏しさはお互いのストレスとなり、それがあらぬ諍いを引き起こす原因にもなる。そして、子どもを持てば持ったで自分たちの時間とお金のほとんどは、その養育のために費やすことになる。見方によってはこれらは結婚という行為がもたらす負の要素と言えるかもしれない。

しかし、私が結婚の好さについて一つだけ自分の経験から自信を持って言えることは、結婚によって誕生したかけがえのない家族一人一人が産み出す無数の喜びは、そんな鼻クソみたいにちっぽけな負の要素など簡単に吹っ飛ばすだけの途方もなくでっかい幸福を家族全員に与えてくれるということだ。

そして、そんな家庭作りこそが結婚することの価値だと私は思っている。



「鹿児島での話はどうだった?」

「初日早々に『結婚させて下さい』と話しました お義父さんから涙目で宜しくと言われました・・・二日目は熊本に連れて行ってもらったり、いっぱいご馳走になって、お義父さんと色んなことたくさん話しました・・・」

「そうか よかった・・・ これからだな!
 帰ったらゆっくり話聞かせてもらうよ」

いつもよりちょっと長めの長男のメールに 私は何故か涙がこぼれた





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