2012年4月2日

個性を活かして

「この焼酎はグラス売りしかやってなくて・・・どうしてもということなら一升瓶で8,000円になりますが~ どうなさいますか?!」

可愛い顔をした若い店員さんが恐ろしいことを明るく言う

「四人で2時間一升はさすがにきついだろう・・・どうだ?」

「・・・」

立川駅前の宮崎地頭鶏専門店「じとっこ立川店」は
週末につき来客一組2時間の制限を設けていた

メニューを覗き込む私と娘 そして長男とその彼女

「だいじょうぶっしょ このメンバーなら 行けるっしょ!!」

短い沈黙を勢いよく破ったのは 昨年二十歳になったばかりの娘だった
鹿児島生まれ 格別酒豪の兄貴の彼女を十分意識しての一声だろう

オーッ 行きますかー 飲める口ですね~?!

可愛い顔をした若い店員さんが今度は営業にかかる

「ん~よし! じゃあそれ貰おう・・・ただ2時間と言わずにせめて3時間でどう?」

「3時間ですか~ ボトルキープも致しますが・・・」

「いやいや こっちは今夜松本に帰らんといかんのよ」

「今夜ですか~ ・・・分かりました! 店長に交渉してきます!

可愛い顔をした若い店員さんが やっと可愛らしく見えた

ほどなく爽やかなイケメン店長が我々の席までやってきて

「スタッフから伺いました 3時間ですね 結構です 電車の時間まで使って下さい!

さすが!! いや~店長いい男だね~ 大丈夫大丈夫 金はバンバン使うから~ お店もしっかり宣伝しとくからね~」・・・我ながら何ともヤラシイ中年オヤジである


そんなやりとりもあって、飲む前から気分が盛り上がってしまった我々四人は、上質の脂が何とも旨い本場宮崎地頭鶏(じとっこ)焼きを味わいながら、ご当地特産芋焼酎「萬年白麹」25度一升をきっちり空にして、3時間をはるかに超える宴席に幕を下ろし、地鶏ならぬ千鳥足で店を後にしたのだった。



先週末、この4月から神奈川の照明技術会社に就職する長女の住む地に赴いた。

今年1月、娘は蒲田にある専門学校の寮を出て、東京に住む兄貴とその彼女が探してくれた、娘が勤める会社のすぐ近くに位置する神奈川県武蔵中原のアパートに引越したのだが、我が家では一人暮らしをする歳になったら引越しくらい自分でやりなさいという教育方針だったので、息子たちもそうだったように、娘も自分で手配したレンタカーのハイエースと友達二人の手を借りて、レンタカー屋の駐車場から出るときに即ぶつけてしまったハイエースの弁償金2万を払うというアクシデントにも負けず、何とか無事?に引越しを終えたようであった。

ただ、さすがに色々物入りだろうと案じて当日様子を見に行っていたカミさんに、あんたも一度くらい娘のとこに行ってやったらと促されていたこともあり、少しはオヤジらしいところも見せなきゃいかんなと思い立ち、今回の訪問となった次第である。


娘は既に昨年夏頃からその会社でアルバイトなどさせてもらっており、仕事に対しての不安は特にないようだったので、とりあえずこちらの専売特許である給料の税金関係の話、また社会保険や労働保険の仕組みなど、彼女がどこまで理解してくれたかはともかく、社会人として知っといてもらいたい常識的な事柄をノートに書きながら一通りレクチャーしてきた。

しかし、最終的にはそんな面倒なことや先のことをあれこれ考えても仕方ないので、今年一年思いっきり仕事をしてみなさい、そうすれば何か見えてくるものがあるはずだと諭して、娘に対するオヤジとしてのアドバイスはとりあえず締め括らせてもらった。


娘の仕事は主として芸能アーチストのPVやMV撮影に携わる照明技術スタッフ、個人的には照明技師と呼ばれる職業である。

業種がら有名な芸能人を目の前にすることも多いようだが、そこはあくまでプロの仕事。娘曰く、現場は色々な分野の多くのスタッフが協力して一つの作品を長時間かけて作り上げるので、ものすごい緊張感で張り詰めている。そのメインが人気アーチストだからといってそんなことに目を奪われてる場合ではない。些細なミスが引き起こす迷惑は、例えば入力ミスしちゃったから修正しますみたいに自分が責任をとればいいという範疇を超えてしまう。だから周到過ぎる準備と、本番で一瞬たりとも気を抜かない集中力が何より求められるのだという。

そんな立派なことを認識できるようになった娘を見守るだけのオヤジとしては、先ずはプロとしての高い技術と知識をしっかり身につけて、いずれは先輩達のようなレベルの高い仕事を任される一人前の照明技師となれるよう応援するのみである。


此度の娘の就職で我が家の三人の子どもたちは全員社会人ということなった。

誰もが知るような一流企業のサラリーマンでも、公務員のように安定した職でもない。三人とも自身の能力次第で明暗がはっきり分かれる専門色の強い技術系の職業を自らが選択してその仕事に就いている。

だからこそ、先ずは自分が得心できるまでしっかりしたスキルを身につけ、そのスキルを基盤とした自己の個性を追求し、そしてその個性を活かした仕事を世に提供して、どこへ出ても自分らしさを表現できる素敵な大人に成長して欲しいと願っている。



「こんなとこに席があるんだ こりゃまた個性的な造りだなぁ」

午後6時に立川駅で待ち合わせた長男と彼女が予約してくれた冒頭の宮崎地頭鶏専門店「じとっこ立川店」に入ると、秘密基地のような中二階ロフト風の座敷に通された 

「すごいな~ メニューは全部宮崎産って感じなんだ」

「専門店だからね」

低い天井に頭をぶつけそうな状態で座した長男が呟く

「いいんだよ 専門ってのは徹底してるのが大事なんだ あとはその味や雰囲気に客の心をつかむ個性があるかどうかが問題だな」

生ビール お待たせいたしましたー!

可愛い顔をした若い店員さんが元気よく乾杯の生ビールを運んできた

女性の方はこちらになりまーす

「ウワ~ 何これ 泡にハートのラインが入ってる~」

ウチの女子二人が目を見開いて「写メ 写メ」と騒ぐ

カシスオレンジでアレンジしてまーす!

オレンジでアレンジって うめぇーこと言うじゃねえか お姉ちゃん!!

んっ? 中年オヤジの心・・・ つかまれた?

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