2014年5月1日

正直と嘘をつかないは違う

「ねえねえ Mテニスコートの管理人知ってるでしょ?」

「ああ 知ってるよ…」

「あの管理人のオヤジ ホンット性格悪いよね!」

帰宅早々 晩飯の用意をしていたカミさんが私に毒づいた

「何かあったの?」

できれば関わりたくないのだが…
優しい旦那代表の私は一応振ってあげる

「今日1時~3時でサークルだったんだよ そしたらまだ3時まで10分以上あるのに
『さあさあ次入ってるからいつまでもやってないで仕舞いだ仕舞!』
って言うんだよ~ それで   …………<中略>……………
あいつ絶対硬式を目の敵にしてるよね!」

要約すると、Mコートはソフトテニスのサークルもよく利用するのだが、その管理人がソフトの協会のお偉いさんと通じているらしく、何かにつけて硬式テニスと差別的行為をするのだという

「話は分かったけど そのオヤジに直接言わなきゃ何も解決しないでしょ」

「そうだけど 正直に言ってこっちの立場が悪くなると困るし…」

「アハハハ なら文句言わずにそういうもんだと思って我慢しなよ」

「我慢できないからアンタに言ってんじゃない!」

「おいおいヤツ当りすんなよ 何も言わないのもある意味嘘ってもんだぞ」

「何よそれ アタシが嘘つきだって言うの?!」

「まあまあ そんな熱くならんと とりあえずメシにしようや」

「とりあえずって何っ! とりあえずって!」

相変わらず一度沸騰すると 中々冷めない保温力の強いカミさんである(笑)




このコラムでも以前ご紹介したことがありますが、千葉県は香取市の臨済宗妙心寺派妙性寺ご住職で、ウチの事務所の顧問をお引き受けいただいている高橋宗寛和尚の研修会が先月ありました。

人生や仕事に対する向き合い方や心の整頓の仕方など、私らの精神的修養の場として隔月で年間6回開催されている「原点の会」という研修会です。

(詳細はこちらから『10年越しの箸袋』http://dairicolum.blogspot.jp/2011/01/10.html)



その中でこんなお話しがありました。

「正直であることと嘘をつかないとは違う」


ウチの三人の子ども達がまだ小さい頃、私は三つの約束と題して彼ら全員にこれだけは守りなさいと言い続けてきたことがありました。

それは『約束を守る 時間を守る 嘘をつかない』の三つです。

実は特に意識していたわけではないのですが、面白いもので、これらは私が子どもの頃に守れないとオヤジにこっぴどく叱られた事柄ばかりです。
きっと私の潜在意識の中にトラウマのように染みついていたのでしょう。


もちろん子どもたちにはお説教のように、ただ守りなさいと言い放ってきたわけではありません。

「約束を守る」のは相手と自分を裏切らないこと

「時間を守る」のは始める時間と終わる時間を決めて行動すること

「嘘をつかない」のはいつも正直でいること

と、具体的にはこういうことだよと私なりの言葉で事ある毎に諭してきたつもりです。


しかし、私は今回の高橋和尚のお話の中で、一つ大きな解釈違いをしていたことに気付かされました。それは「嘘をつかない」ではなく「正直でいなさい」と教えなければならなかったということです。

ひょっとしたらウチの子どもたちは、嘘をつかないイコール正直であると捉えてしまっていたかもしれません。


正直であるということは、ただ嘘をつかなければいいということではなく、例えばそれを相手に言ったら自分が不利な立場になるとしても、或いはその相手が嫌な思いをするだろうと分かっていたとしても、それが事実として言わなければならないことなら、ありのままにきちんと伝えるということです。

言うべきことを自己保身のために何も言わないとするならば、それもまた嘘であり、当然に正直であるとは言えないのです。

考えてみればもっともな話です。

例えば子どもが何か悪さをして、親に叱られたくないからそれを黙っていたとします、こんなことは実によくあることです。そして少なくとも何も言わない時点では、子どもは嘘もついてはいません。

しかし、それが知れたとき親は我が子に何と言うでしょうか。「なぜ 正直に言わなかったんだ!」と、まるで嘘をついていたかのように叱るのではないでしょうか。

子どもだけに限らず、大人社会のビジネスの世界でも、クレームやミスほど直ちに報告しなさいというセオリーがあります。

例えば、自分が得意先からお宅の電話応対が悪いとクレームを受けたとします。それを「私はそんなこと聞いてない」と言えば立派な嘘ですが、電話をしていた人間がたまたま仲の良い同僚だから何も言わなかったとすれば、これもまた嘘をついたことと同じ状況になってしまうということです。


ただ、気をつけなければいけないのは、自分勝手に作り上げたイメージや想像を事実のように言わないことです。

私もどちらかというとストレートにモノを言っては反省することが多い人間なので偉そうに言えませんが、俗にいう言わなくてもいいこととは、自身の主観に基づいた相手に対する感想です。これは私の経験上も言い争いのタネにしかなりません。


あくまでも客観的な事実や誰もが認める真実を、自分の有利不利や損得を考えずにありのまま伝えること、それが正直であるという姿に他ならないということです。

既に社会人となった三人の子どもたちではありますが、また皆が揃ったときにでも、正直と嘘をつかないは違うということをきちんと話そうと思います。




「ちょっとあんた 一体どっちの味方なのよ!」

沸騰したカミさんの攻撃が収まらない

「どっちの味方とかそういう問題じゃないでしょ」

「だいたい アタシがこういう話するといつも面倒臭そうな顔するけど
何か言いたいことがあるならハッキリ言いなさいよ!」

「別に言いたいことなんてないよ」

「何よ~ あんただって何も言わないって嘘つきってことじゃないの?!」

「いや これはオレの主観だから言わない方がお互いのためだ」

「何わけの分かんないこと言ってんのよ! もう知らない!!」


この日の夕飯は一人寂しく粛々と頂いたことは言うまでもない


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