2011年7月30日

快挙

「ヨッシャー入ったー! 澤ー!!」

元日本代表GK小島伸幸と元なでしこ川上直子両解説陣の雄叫びを遮るほどの歓声が夜明けの日本に轟いた

「ヨッシャーとめたー! 海堀ー!!」

神憑りともいえる彼女たちの頼もしさが日の出の日本に奇跡の予感を充満させた

そしてチームメイトの手を握りしめたまま、懸命にサッカーの神様に捧げるキャプテン澤穂希の真直ぐな祈りと、日本サポーター全員の心からの祈りが重なった瞬間

「ヨッシャー決まったー! 熊谷ー! 優勝だぁー!!」

夢のような快挙が みごと現実のものとなった



東日本大震災と福島原発事故の余波がまだまだ残る陰鬱なムードの7月18日、女子サッカーワールドカップなでしこジャパン世界一という快挙を伝えるビッグニュースが日本中を席巻し、愛すべき21人のなでしこ達が、この上なく力強い大きな活力を我々にもたらしてくれた。

まさかまさか自分が生きている間に、あのワールドカップの優勝トロフィーを、日本チームが天に向かって突き上げる光景を見ることができるなんて・・・ホント皆さん信じられます? これが夢なら覚めないでくれと怖いほどの歓喜に打ち震え、暫く動けなくなってしまったのはおそらく私だけではないだろう。


それにしても今大会、なでしこジャパンの戦いぶりには驚嘆するばかりだった。

その予選リーグは、なでしこのシンボル澤穂希の代表通算得点記録となる76ゴール目を含むハットトリックの活躍などもあり、2勝1敗という戦績で突破した。

そして迎えた決勝トーナメント初戦、ベスト4をかけた準々決勝の相手は大会3連覇を狙う優勝候補筆頭のドイツ。今大会の開催国であり、3年前の北京オリンピックでは、なでしこジャパンが初のメダルをかけて臨んだ3位決定戦で1点も取れずに叩きのめされた因縁の相手でもある。加えて日本はこれまで一度もこの強国に勝ったことがない。

試合前は、私を含めてかなり多くのサポーターの脳裏に『今回もここで終わりかな』という思いが正直よぎっていたのではないだろうか。

ところが、完全アウェイの中試合が始まると、彼女たちは体力も技術も明らかに格上の強豪ドイツを相手に、攻め続けられながらも身体を張った全員守備で守り抜き、前後半90分を0-0のドローと踏ん張った。

そして迎えた延長後半3分、澤の浮き球に反応した丸山が相手ディフェンダーの裏に抜け出し、エンドライン際角度のないエリアからトップスピードのまま放ったシュートが左サイドネットを揺らし、これが決勝点となって対ドイツ戦の初勝利と、初のメダル獲得への挑戦権を再び手中にした。


今大会このドイツ戦の勝利が本当に大きかった。北京のリベンジを果たしたなでしこジャパンは、この勝利をきっかけに何か憑きものでもとれたかのように、最後まで諦めない強いチームへと変貌していった。

我々サポーターも、このチームならひょっとして本当にやってくれるのではないかという期待感が日に日に強くなっていた。

そんなムードで迎えた準決勝スウェーデン戦は、永里に代わって先発出場した今大会のシンデレラガール川澄の2得点の活躍で勝利し、女子サッカー世界大会での初のメダル獲得を確実にした。


そして、なでしこジャパンの真の粘り強さを全世界に知らしめたアメリカとの決勝戦。

日本は世界ランク1位アメリカの猛攻に叩かれても叩かれてもチーム一丸となって懸命に喰らいつき、絶体絶命の窮地に二度も追い込まれながら、これまでなでしこジャパンを牽引してきた2人のリーダー、澤と宮間の技術を超えた執念のゴールで追いつき、全員が絶対に諦めないという強い姿勢で最後までボールを追い続けた。

そして延長を含む120分間を戦い抜き、互いに譲らず2-2のドローという結果となったが、この決勝戦でのなでしこの戦いぶりは、まさに今、復興日本が目指すべき明日を象徴するかのような圧巻の試合内容だった。

雌雄を決する最後のPK戦は、大会を通じて再三好守備を見せてきた守護神海堀のスーパーセーブも含めて、今大会ずっとキャプテン澤穂希に微笑み続けてくれたサッカーの神様が、彼女のこれまでのひたむきな努力と、純粋にサッカーを愛する気持ちに対するご褒美として、日本を勝利に導いてくれたように思えてならなかった。


今回のなでしこジャパン優勝という事実、そして彼女たちの最後まで諦めない姿は、被災地の方々を初めとする我々日本国民にどれほど大きな勇気と元気を与えてくれたかは言うまでもないが、この優勝を通して、全世界の人々が日本への祝福と同時に、復興への激励、支援を改めて心に刻んでくれたことも、彼女たちが身をもってもたらしたもう一つの大きな貢献と言えるのではないだろうか。



「でも澤って ホントすごいよね~」

試合後のインタビューを見ていたカミさんが呟いた

「澤の何がすごいと思うの?」

「だってゴール見ないで後ろキックで点入れちゃうんだよ~
 あんなこと他の選手には絶対できないでしょ!」

「後ろキックって・・・まあ確かにあれが入っちゃうとこはタダ者じゃない
 でも本当にすごいのは いつでもどこでも“自然体”ってところだよ
 あの立場にいたら 普通あれだけ無邪気にサッカー楽しめないよ
 凡人なら必要以上に格好つけるか プレッシャーに潰されるだろうね
 彼女にはそれが全くない そこが一番すごいとこだと思うよ」

「ふ~ん でも無邪気って 考えが浅いとか単純って意味じゃないの?」

「ああ 俺が言った無邪気ってのは邪心がないってこと 
 無駄に野心や妄想を抱いてない・・・無心ってことだよ」

「そうか・・・じゃ私もより無邪気にテニスとか温泉を楽しめばいいってことね!」

「その無邪気はお前が言った方の意味!」

「あら・・・」

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