2006年9月6日

コストダウン

9月最初の日曜日、行きつけの美容院に散髪に行きました
その頭で何で美容院なんだよ?(って言いますか!)

失礼な!

そこは私がホテルマンをしていた頃に
とてもお世話になった上司の奥さんのお店
もう20年来通っていて、逆にすっかり後退した
この頭をどうにかしてくれるのはこの美容院しかないんです

それはともかく、いつものように世間話をしながら僅か10分ほどでカットを終えた私を「ちょっと時間いい?」と奥さんが呼び止め、そしてある会社の行く末を案じてこう言いました。

「暫くの間、妹のところから手を引いてくれない?」

おふざけモードだった私は一瞬時間が止まりましたが、頭を整理して
「話を聞かせて下さい」と、改めてソファに腰を下ろしました。

実はその会社というのは、今から20年近く前に、この美容院の奥さんの妹さんが社長の下に嫁いでいるという縁で紹介していただき、現在も私が担当している得意先です。

バブル当時は毎年かなり順調な業績を上げていたのですが、ここ数年急激に状況が悪化し、良かった頃に投資した負債が今になって重くのしかかるという悪循環で、非常に厳しい経営環境にさらされていたのです。

以前から妹さんにそんな状況を相談されていた奥さんは、まず「何か節約できることはないの?」と切り出したそうです。「もう目一杯切り詰めてるんだけどね・・・」と返され、「とにかくコストダウンしなきゃ!」と色々相談した結果、会計事務所を切ることを勧めたと言います。

「帳簿だけちゃんとつけて、それを持って税務署に行けば、決算や申告なんて何とでもなるんだから!。高い報酬払って会計事務所に見てもらわなくてもいいんじゃない?って妹に言ったのよ」
奥さんがまくしたてます。

本来は違いますが、こういった状況では確かにそれも一理あります。どうやったってそれ以上税金を納める余地もなく、税務申告することだけを考えれば、現実問題としてそれもありというのは事実でしょう。

「何ヶ月か前に妹さんからその話はされました・・・。でも社長からは助けて欲しいと言われてます。奥さんは私が決算書や申告書を作るだけのことで、20年も妹さんの会社とお付き合いしてきたと思っているんですか?」

掃除の手を止め、ちょっとびっくりした表情で奥さんは私を見ました。

「本当のコストダウンっていうのは、まずは無駄な、不必要なコストを削減するってことでしょ?確かに会計事務所が高い報酬だけ取って誰でもできるような仕事しかしないのなら、不必要な経費としてカットしてもやむを得ないと思うけど、少なくともウチはそういう会計事務所じゃないんですよ。それに奥さんともあろう人が、本気で私が妹さんの会社にとって必要ないと思ってるんですか?」

「・・・・・・」

「守秘義務があるんで、話せることと話せないことがあるけど・・・」
このあと言葉を選びながら、これまで私が社長夫婦にしてきたアドバイスや会計事務所という立場からの私の考えを話しました。

この会社がそうであるように、我々の業界では特に親戚とか友人つながりでの得意先が結構多いのが現実です。奥さんも昔からの知り合いである私に気を遣って今までなかなか話せなかったのだと思います。それでも一向に好転しない妹さんの会社の状況に黙っていられなくなり、ここで勇気を持って話してくれたことに対し、私もできる限り誠意をもって対応したつもりです。

最初は少し興奮気味だった奥さんも、私の話を聞いているうちにいつもの穏やかな視線に変わっていきました。


私たちが価値ある存在でありたいと思っていてもそれを評価するのは関与先の皆さんです。私たちがいただく報酬が高いか適当かも、関与先にとっての私たちの存在価値の有無如何です。私たちに力がなければコストダウンの対象になるのは当然でしょう。そんないつ削ってもいいようなコストの一つにならないように、関与先に貢献できる真のパートナーになるべく、私たちは自己を磨き続けたいと思っています。


「よろしく頼むね!」

奥さんの最後の一言に武者震いした一時でした。

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