2010年8月28日

反面教師

「おーい」

バスを降りると ちょっと先にきょろきょろする長男の背中が見えた
隣には一緒に連れて来ると言っていた彼女らしき女性の姿

「あ~ よかった やっぱり道が分からなくて・・・」

私らと長男の彼女との初対面は 松本城にほど近い道の真ん中だった

「こんにちは~」

「は、初めまして・・・」

「・・・まっ すぐそこだから とりあえず行こう」

残暑厳しい夕暮れ時 挨拶は後回しにして
待ち合わせていた なじみの店に向かった



お盆も仕事で帰れないと言っていた東京で暮らす長男が、やっと夏休みがとれたからと今週帰郷した。 が、今回は、今お付き合いしている彼女と二人で信州をプチ旅行するというおまけつき・・・ もとい おまけはウチに帰るほうで、二人にとっては旅行がメインであった。

それでもせっかく彼女が一緒だから我々家族に紹介したいというので、その日しかないというその晩に、息子が帰省するといつも行くなじみの居酒屋(2010年4月「気づきは才能?」)で会うことにした。


実は、息子から彼女を正式に、というか改まって紹介されるのは、私にとっては初めてのシチュエーションだった。

学生の頃から一般的な男子程度の恋愛はそれなりにしてきただろう息子たちは、時々彼女をウチに連れてきたりもしていたので、顔を合わせれば普通に挨拶くらいは交わしてきたが、当時はこっちもオトモダチの範疇としか見ていなかったから、仲良くやれよと応援こそすれ(2009年1月「恋愛応援団」)当然にそれ以上立ち入ることもなかった。

しかし長男も今年24歳、同級生や歳の近い従兄が結婚するなんて話も聞かれるようになり、将来を見据えての恋愛をする年頃になったことは事実である。今までのようにただ一緒にいて楽しい程度の付き合いとは違うことを、当の本人も十分意識した上での紹介だと私たちも受け止めていた。


彼女は九州鹿児島の出身で、今は同じ東京で働く一つ年上の女性。

素朴なご当地訛りが混じるハキハキした元気な声と明るい表情
<明るく元気は基本中の基本  問題なくファーストステージクリア!>  

中学でソフトテニス、高校で硬式テニスをやってきたスポーツウーマン
<カミさんと娘と全く同じ経歴にビックリ 勢いでセカンドステージクリア!> 

私とカミさんの天然めおと漫才に大受けにウケてくれて大爆笑
<ハラからよく笑う人に悪い人間はいない 当然サードステージクリア!> 

九州の女らしく見事な飲みっぷり 息子より確実に・・・強い
<親父としては殊更に気に入った 独断でクオーターファイナルクリア!> 

彼女の鹿児島のご実家には何と天然温泉が湧き出しており、父上が経営する建設会社の一事業部門として、その良質の温泉水を利用した『美豊泉』という天然水と、同名のオリジナル芋焼酎を製造販売しているという。

(今年の父の日に、私はその焼酎『美豊泉』の化粧箱入2本セットを二人から贈ってもらっていた。鹿児島の芋にしてはクセがなく、逆にまろやかで飲みやすいと思っていたのだが、温泉水で醸造しているという彼女の話を聞いて納得。独特なパンチの利いた芋焼酎が好きな方には少し物足りないかもしれないが、天然温泉水の上品な焼酎を是非一度お試しいただきたい。詳しくはこちらで http://www.bihousen.co.jp/)

焼酎に温泉と、私ら夫婦の一番弱いところを突かれ、セミファイナルもクリア!

ほどなくして仕事を終えた次男も合流し、改めて乾杯。こっちがいい具合に盛り上がっていたこともあろうが、待ってましたとばかりに彼女がドンドン次男に話しかけてくれるのですぐに打ち解け、酒宴は楽しい笑い声に包まれ、和やかな雰囲気で佳境へと入っていった。


そして ファイナルステージ

わずか数時間だが、ともに過ごした宴の中で、彼女が息子を思ってくれる気持ちが本物だと感じた私は、単刀直入に訊いてみた。

「こいつのどこに惚れたの?」

「家族を大切にするところです!」

彼女は、私らが背筋を正すほど、迷うことも照れることもなくはっきりと答えてくれた。

そして、彼女にそう思わせた息子のエピソードを縷々話してくれたのだが、その話に耳を傾けながら、ウチの息子の一番いいところをしっかり見てくれている彼女を、私らもすっかり好きになっていた。

家族を大切にする人が好きということは、自分も家族を大切にする人だということ。

互いに支え合わなければ生きていけない人間の健全な信頼関係のベースは、言うまでもなく家族という最も身近な組織の中で育まれる。

そして、友達、同僚、先輩後輩、地域社会の人々・・・ これらすべての環境の、すべての人々との人間関係は、その家族の中で自分がどのように生かされてきたかによって構築されると言っても過言ではない。

息子も彼女も、人が生きていくうえで本当に大切なことをしっかり認識した大人であることが、私には何より嬉しかった。

「弟も兄貴と同じくらい家族思いなんだけど どうしてだと思う?」

「・・・どうしてですか?」

「それはね 母親がこいつらの胃袋をガッチリ掴んできたから」

「・・・?」

「子どもたちが生まれてからずっと お母さんが手を抜かずに手料理を食べさせてきたからなんだ そんな当たり前のことを毎日やってきただけ でもそれだけで十分 それがすごいことなんだ 家族にとって・・・ 
口にはしないけど 家族全員それがどんなに有難いことか分かってる その母親に対する感謝の気持ちが こいつらの思いやりの原点なんだよ」

「・・・そうなんですね」

半分 『だから君もね』という期待を込めて老婆心なことを言ってしまったが、そんなオヤジの意を介し、にっこり頷いてくれた彼女の笑顔に何とも温かい思いやりを感じながら、息子が自信を持って「彼女を紹介したい」と言った真意がよく分かった。


親は、子どもがどんなパートナーを連れてくるかで親としての自分を評価することができるような気がする。万が一、自分の子どもが本当にろくでもない半端もんを彼氏だ彼女だと連れて来たら、それは親としての責任を十分に果たしてこなかった自分に原因があると考えた方がいいかもしれない。

なぜなら、親にとって子どもは一生『鏡』の存在、最高の『反面教師』だからである。



「お前 いつの間にそんなに上手くなったのよ」

異様な盛り上がりの勢いで飛び込んだ二次会のカラオケボックス
ここで次男の予想外の歌声に全員が驚かされた

「いつの間にって 大体ちゃんと聴いたことないじゃん」

そういえば子どもとカラオケなんて十年以上来てなかった

親の私が言うのも何だが 次男の歌は一聴の価値がある
今からでも遅くはない ストリートからでもやればいいのに・・・

「ところで兄貴の彼女はどうよ?」

「いいんじゃね・・ってか 母さんに雰囲気似てるよね」

「だよな~ お父さんもそう思ってたんだよ」

長男の歌に カミさんと彼女二人の息の合った手拍子と掛け声が響く

「・・・ってことは 間違いないな?」

「・・・だね」

すべてクリア! ということで今後ともヨロシク!

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