「会長! 娘さんは卒業後どうされるんでしたっけ?」
「ええっと… 専門学校に進みます… けど ここでそれ聞く?」
娘の高校の卒業祝賀会 300人近い列席者を前に
ステージの上で司会進行役のPTA副会長と
思い出話を語る即興コーナーでのこと
「明るくて元気のいいお嬢さんだって評判ですね!」
「そうですか? ありがとうございます…って
だからここでそれ必要ないでしょ…」
途中から敵はやたらとプライベートな話題に突っ込んできた
『?』
「実は今日 その可愛い娘さんから お父様へのお手紙を預って参りました!」
「なっ!! えーっ!! いやいやいや 嘘でしょ?」
このくだり 何かのテレビ番組で見たことあるぞー そうだドッキリだー
会場にいるカミさんに『知ってたの?』と目配せするが 首を大きく横に振る
あの鳩が豆鉄砲をくらったようなキョトン顔は どうやらグルではなさそうだ
『頼む やめてくれ~』
「ということで皆さん そのお手紙をこれからご披露させていただきます!」
会場からは万雷の拍手と冷やかしの歓声が飛ぶ
『ホ… ホンキなんだ…』
この3月で娘が高校を卒業しました。
私は今年度のPTA会長を仰せつかっている関係で、卒業式の来賓代表の祝辞に続き、式後に催された卒業祝賀会(昔の謝恩会です)では主催者側の実行委員長ということで、それなりに忙しくも充実した時間を過ごしていました。
その祝賀会の席上、私は役員の仲間たちからとんでもないサプライズを戴きました。
今年度、副会長という私の相方を務めてくれたK氏は、普段は旅行会社に勤務して添乗員などを本職としているサラリーマンなのですが、一方では司会業やラジオ番組のパーソナリティなどもこなすエンターテイナーで、この地方では知る人ぞ知る結構有名な男です。
そんなセミプロ芸人のような忙しい彼ですが、PTAの活動にも積極的に協力してくれて、常に私を立てながら、抜群の間合いで他の役員たちとの円滑なコミュニケーションを作り出す、パートナーとしては申し分のない有能な人物でした。
今回の祝賀会も、彼と二人で過去の実施要領などを参考に式次第を作り、事前準備から当日の仕切りまで、式のタイムテーブルとスケジュールを確認しながら企画運営してきました。
そして本番、彼は当然の如く司会進行を引き受け、その名調子で和やかに進められた祝宴が佳境にさしかかった頃、スッと私の席の傍らにやって来て、私の耳元で囁きました。
『ちょっと時間あるんで ステージに上がって二人で雑談でもしませんか?』
もちろん当初そんなコーナーはなかったのですが、それが悪魔の囁きだとは知る由もなく、ホロ酔い気分の私は、「いいよ いいよ」と二つ返事で軽くOKしました。
ステージに上がり、酒の勢いも手伝って、最初は彼との掛け合い漫才のような調子で会場を盛り上げていたのですが… 私は彼の仕込みに一瞬身体が固まってしまうほど、見事にはめられてしまったのです。
ところが・・・
K氏が代読してくれた娘の手紙にこんな一節がありました。
“私学助成金の署名集めの時、お父さんは電話や手紙で
大勢の知り合いに声をかけて一生懸命頼んでいましたね。
そして一人で700人以上の署名を集めてそれを私が学校に
届けたとき、署名の数を見た担任の先生から「オヤジさん
は表彰もんだな!」と言われ、これってやっぱりすごいこと
なんだと私もとても嬉しくなりました。そして、自分が引き
受けたからにはどんなことでも手を抜かず、自分のやれる
ことを精一杯やる、そんなお父さんの姿勢を私も見習って
いこうと思いました・・・”
当時、私学助成金なんて言葉さえ口にしたこともなかったのですが、本当に子どもってのは私らの気付かないところで親をよく見ているものです。
その手紙の内容を聴きながら、娘のちょっと成長した一面も垣間見えてとても幸せな気持ちになっていた私は、これまでの娘との色々な出来事が自然と頭に浮かび、恥ずかしながら感極まって、込み上げるものを抑えることができなくなっていました。
K氏から手紙を受け取り、「家宝にします!」と一礼して、ハンカチで目頭を押さえながらステージを降りると、娘をよく知る先生方や部活仲間のお母さんたち、そして他の役員の仲間も次々と私の周りに集まってきて、「感激した」「会長最高ッス!」などと声をかけてくれ、肩を叩いて握手をしてくれました。
中にはこっちがびっくりするほど号泣しているお母さんや先生もいて、私だけでなく、みんなにとってもいい思い出になったのかなと、今はこのサプライズを演出してくれたK氏に感謝の気持ちで一杯です。
最初は勝手も分からず『気が重いなあ』と、内心PTA会長という役回りを憂いていましたが、K氏を始め多くの仲間たちのおかげで何とか1年務めさせてもらい、こうして最後にその素敵な仲間たちから大きなご褒美をいただいて…私は本当に幸せものです。
みんな ありがとう! 心から感謝してます!
「おまえ いつあんな手紙書いたんだよ!」
「え~ もしかして今日読まれたの?」
「知らなかったのか… でもよく黙ってたもんだな~」
「絶対親にバラすなって言われてたから…」
「そうか… しかし みんなすっごい感激してたぞ
まあ お父さんが一番感激したけどな… ありがとよ」
「あんま泣かしちゃ可哀想だから あれでもちょっと遠慮したんだけどね~」
「・・・」
ドラマや映画を見ながらしょっちゅう泣いている私を
娘はやっぱりよく見ていたようだ…
でもホント 素晴らしい思い出をありがとう!
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