「お前たちどうして服を脱ぎっ放しにしてるの~
いつも言ってるでしょう~ ちゃんと片付けなさい!」
珍しく家族全員がウチにいた休日の午後
2階のベランダで洗濯物を取り込みながらカミさんの遠吠えが響く
「ハイハ~イ」 「ホイホ~イ」
何とも気のないふざけた返事のオウム返し
ほどなく階段をドタバタ下りてきたカミさんが私に向って愚痴る
「まったく何回言っても分かんないんだから・・・
お父さんからガツンと言ってやってよ」
横峯さくらと三塚優子の熾烈な優勝争いに見入っていた私は
「うん? そんなの全部資源物に出しゃいいじゃん」
「もう~ いい加減なこと言ってないで・・・」
「冗談じゃないって、そのくらいしなきゃ本気で聞かないさ」
「・・・ホントに?」
「俺はいつもホントでしょ?」
そして二階に向って親としての覚悟を告知した
「おーい お前ら今日から床に放り出してる服は棄てるからなー
どうすりゃいいか言わなくても分かるなー」
「ハ・・・ハーイ!」
どうなることやら・・・
親は自分の子どもに本気で言うことを聞かせたかったら、それ相応の覚悟を持ってものを言わなくてはならないと思います。親として覚悟を持って言ったことは、責任を持って本当に実行することが重要です。
よくある自分本位の脅しやヒステリー、はたまた冗談としか受け止められないような態度や言葉ではなく、本当に大切なことは『ヤベッこりゃ本気だ』と思わせられなければ、親、特に親父としては寂しい限りではないでしょうか。
子どもたちの自殺や殺人といった痛ましい事件や、いじめや不登校といった悲しい現実が当たり前になってしまった昨今の世の中ですが、そんな哀れな話を聞くたびに、当事者であるその親が、しっかりとした覚悟を持ってそれまで我が子に向かい合ってきたのかなと思ってしまいます。
と、親子の問題では強気でそんなことを言える私ではありますが、実は会計事務所という仕事は、「覚悟」という言葉をそうそう簡単に使えないという経験を実に多くさせていただく職業でもあるのです。
私の担当先で、ここ数年の不況のあおりを受けて業績が低迷しために、それまで永年営んできた業種からの事業転換を決断した企業さんがありました。
その経営者のご夫婦は既に年金をもらう年齢だったのですが、その会社を承継するために毎日必死に働いている息子さんのためにも、会社を再構築しなければならないという経営者としての覚悟をされたのです。
しかし、一口に事業転換と言っても、そこには大きな投資や膨大な人的エネルギーが必要で生半可なことではとても実現できるものではありません。
巡回監査の折り、そんな心配を一生懸命話していた私にその経営者の方は仰いました。
「軌道に乗るかどうかなんてやってみなきゃ分からないさ。ただ大袈裟かもしれないが俺は命を賭けてる。もし予定通りにいかなくて、最悪全部なくなっても仕方ない。当然その位の覚悟を持って始めたことだ。だからあんたも会計事務所の立場から、これからも精一杯協力してくれ・・・」
経営者が命と生活のすべてを賭ける覚悟・・・私はこのときの武者震いをはっきりと覚えています。
企業経営者の方々にとっては、事の大小に限らずほとんど毎日が決断と覚悟の連続なのでしょうが、そういった現実を垣間見るたびに、簡単に“覚悟”なんて言えないなと思うと同時に、私らの仕事の責任の重さと、そしてまたある意味やりがいを改めて叩きこまれます。
私たちは、そういった経営者の方々を真にご支援できるように、日々研鑽に努めていきたいと思います。
「ごめんなさい!」
毎月最終木曜日 町内の資源物収集前日の夜
帰宅すると息子と娘が服を詰めたビニール袋を前にひたすら私に謝ってきた
きっと袋に詰めながらカミさんがそうしなさいとでも言ったのだろう
「おいおい“ごめんなさい”じゃなくて、こうするって言ったよね?」
「・・・まさかホントに棄てるなんて思わなくて・・・」
「まさかって、いつもホントだろ? お前らお父さんと何年親子やってんだよ」
「・・・お願いします!これからちゃんとするから棄てないで下さい!」
「謝るくらいなら最初っからテメエの身の回り位ビシッとやっとけ!
いつまで親につまらねえことさせてんだこのバカヤロー!」
「ご、ごめんなさい!!」
これは覚悟じゃなくて単なる対策でした・・・
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